君という海に溺れる




揺れる私とアダムの髪。

なびく髪を押さえながら、風の強さに目を細める彼。


その横顔があの日の景色と重なった。

あの、澄んだ青の下で呼吸していた日々と。



──────────────コポ、




「俺にとっては、その瞬間だけが世界の全てだったから」




そう言ってアダムは穏やかに微笑んだ。

愛しそうに。幸せそうに。

それがこの世の全てだと言わんばかりの微笑み。




(私は、知ってる)




その微笑みの存在を。


細められた彼の瞳は、暗い夜の海のよう。

引きずり込まれそうな恐怖とそれ以上の安心がそこにある。


闇夜のドレスで着飾って、その髪にキラキラと瞬く星の冠を乗せたなら。

『お姫さまみたいね』と誰かが笑った気がした。




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