君という海に溺れる




表情を、感情を目に捕らえるのは最大の苦痛だ。


そこに浮かぶ些細なものを読み取って、合わせながら会話をしなくてはならないから。

相手の声色を聞き分けて話をしなければならない気がするから。



そして何より、きっと私のこの顔は思ってもいない笑顔(ツクリモノ)を映し出すから。



それは決して義務ではない。

誰もが当たり前にこなしていて、誰もが気にも留めない行為なのかもしれない。

けれどそれは私にとって生きる上で最も苦痛であり、最も必要性の高いものなのだ。


私はそうやって生きてきた。

そうすることでいつも場所を探してきた。




(面倒臭い)




そう心の中で呟いて目蓋を閉じる。


広がるのは暗い、暗い世界。


それでも明るい世界より幾分か居心地がいい気がした。




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