君という海に溺れる




嬉しかったら"ありがとう"と。
悪いことをしたら"ごめんなさい"と。

言えなくてはいけなかった。

言える大人になりたかった。



『…ありがとう』



綺麗な声で紡いでくれたあの人のように。

穏やかな海のような笑顔に近づけるように。


それなのに、いつからか忘れてしまっていたそれ。




(少しは…取り戻せた?)




あの頃の自分を。

近づけただろうか。あの頃の自分に。


まだ、小さな一歩しか進めていないかもしれない。

私は人より何歩も後ろを歩いているのかもしれない。


それでも間違いなく変化があったのだと思えたのは、目の前の彼女の表情が懐かしいものに変わったからだろうと思う。






取り戻した勇気。
(浮かんだ笑顔がその証拠)




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