君という海に溺れる
しかし私の言葉の意味を知らない妹は、その言葉に納得できなかったようで。
撮影をしていたことに対する反応だと思ったのだろう。
不思議そうに首を捻り"驚かないの?"と眉をしかめていた。
驚いていないわけではない。
こんな片田舎でどんな撮影をするんだろう、とか。
一体どこにスタジオがあるんだろう、とか。
気になることはたくさんある。
「驚いてるよ」
けれど、それは私が聞いてはいけない質問だから。
「…でも、知ってたから」
知っていたから。
あの人たちが近くにいることも。
今度の新曲の音色も。
(…アダムに、会いたいな)
そして、彼との別れが近付いていることも。
賽は投げられた。
(もう、戻ることは出来ない)