君という海に溺れる




いつからだろう。

アダムとの時間が、雨の音を消してくれると気付いたのは。

彼の隣では心はいつも穏やかな波をうつ。


いや、違う。


アダムこそが海なのだ。

溺れてしまいそうなほど深い海。


彼は甘い旋律で緩やかな波を描いてくれる。

空に広がる嵐を遠ざけてくれる。


その音から私を守るように。




(雨雲が、晴れていく)




だから、私は安心してその海を泳ぐことが出来るのだ。




「ハナ」




目を閉じて青に沈んでいた私に届いたアダムの声。

柔らかな彼の声。


それに逆らう術を持たない私は、素直に目蓋を上げてその声の方へと顔を向ける。


視線の先にはいつも綺麗なあの人。

彼のその唇が、私の想像通りに動こうとしていた。




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