君という海に溺れる




アダムの声が風を揺らし木漏れ日を浴びて、花を咲かせるのだ。

色とりどりの色彩が彼の周りに集まって虹を描く。

それが私の世界。


あの日もそうだった。

初めて彼に会ったあの日も、彼は歌を歌っていた。

寂しそうな瞳と綺麗な横顔で、歌っていた。

朝の、まだ冷たい空気の中で。


そしてようやく気付く。

この景色に違和感があった理由に。

あの頃よりもこの視線が高くなっていたことに。


ポロン、


最後のギターの音が静寂に響いた。

穏やかな時間が終わる。




「…ハナは、俺が誰か知っていたんでしょう?」




その言葉と同時に、彼と景色が重なった。


これが、私とアダムの最後の時間。






終幕の時を告げる。
(そして果たされる約束)




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