君という海に溺れる
ガタン、ガタン
響く電車の走る音にふと現実に引き戻された。
そして初めて自分の意識が遠退いていたことに気付く。
どうやら知らないうちに音楽に引きずられるように眠りへと誘導されていたらしい。
それはそれで心地よくてよかったのだが、一度戻ってしまった意識は再び眠りの先へと戻ってはくれないようだった。
相も変わらずガタンガタンと規則正しく揺れる大きな鉄の塊。
あまりにも大きなその音は、イヤホンから僅かに漏れている小さな音楽なんかより何十倍も五月蝿いんじゃないかとどうでもいいことを考える。
きっとそんなこと誰も気にしていないのだろう。
それは当たり前のことなのだから。
人は当たり前から外れたものに敏感に反応するものだ。
私もまた、そうであるように。
電車の社内には疎らな乗客。
それでも目に入る人の姿に軽い目眩を覚えた。