君という海に溺れる




嫌な感覚ではない。

ただ、迷いなく告げられた言葉に心が震えたんだ。


そんな俺の動揺に気付いているのか、老夫婦は笑みを深めて。



『笑った顔からは"好き"が伝わるんだよ』



長年連れ添っているのであろう二人は小さな彼女にそう告げると、その笑みを絶やすことなく手を振って歩いていった。


そんな二人な言葉が俺の頭から離れない。




(好きが、伝わる…?)




ぐるぐると巡る言葉。

思わず右手で自らの頬や唇に触れてみる。


そんなにも俺は表情を崩していたのだろうか。

感情の制御は上手い方だと思う。

だから、あまりそれが大きく表に出ることはないと思っていたのに。


道行く人に気付かれてしまうほど、笑っていたのだろうか。



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