君という海に溺れる




きっと、言葉の意味をわかってはいない。


そんな彼女の頬を優しくなぞって笑ってみる。

そうすれば、彼女は安心したように笑った。

俺が見たかった、あの真っ白な笑みで。




「止まない雨はないから」




この雨が上がったら、必ず君を見つけに行くよ。

君のもとへ帰ると約束しよう。




「だから、バイバイは言わないで」




その言葉はあまりに寂しすぎるから。

永遠の別れを感じさせるから。

その言葉は欲しくないよ。


そう言えば、彼女は涙をその大きな瞳に浮かべながら、それでも笑顔で頷いた。


瞳の中には、いつもの暖かな木漏れ日。

悲しみに捕らわれた闇はもういない。


この笑顔が俺を生かす。


その日はずっと、時間の許す限り手を繋いで過ごした。




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