君という海に溺れる




「…PVの撮影と新曲のレコーディングに来てたんだね」




テレビで見たよ。そう告げればアダムの微笑みが微かに悲しみに歪んだ。

どこか、諦めに似た色をその瞳の奥に添えながら。


初めから、アダムが大好きなあの人だということは知っていた。


虹の麓を求めて此処へ来た日。

丘の上から聞こえてきたのは、間違いなくあの人の歌声だったから。

何より私の一番好きなあの曲だったから。


それに今朝テレビで流れていた新曲は、時折この場所でアダムが口ずさんでいたものと同じだった。


私が、あの人の声を聞き間違えることなんてあり得ない。


毎日飽きることなく聞いている声。

何度も助けられた、光のような声。




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