君という海に溺れる




けれど、それを告げるつもりはなかったのだ。

私だけの秘密。

そう心の奥にしまっておくつもりだった。

彼にそれを求める理由はない。

そんなつもりもない。


だから名前を名乗ることもしなかった。


初めから、全てわかっていたけれど。


それでも私には彼が誰なのかということより、彼が此処にいてくれることの方が重要で。

アダムといるこの時間だけが真実だった。


それは多分、アダムも同じだったと思う。


彼は何も言わなかったけれど、私があの人を知っていることに気付いてた。

その素振りは初めから私のことを知っているようだった。


そして何かを確かめに来たようにも見えた。




(もしそうだったら…)




私は再び口を開く。




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