君という海に溺れる
普段あまり使う機会のないそれは、買ったときと殆んど変わらず綺麗なままだ。
私はその後ろの方にそっと挟んであった一枚の紙切れを丁寧に引き抜いた。
それは数日前に押し入れから出てきた、あの写真。
綺麗な女の人と小さな女の子が笑っている写真。
「…それ…」
写真を見たアダムの口から漏れた擦れた声。
無意識に零れたのだろう。
アダムはその呟きに気付いていない。
そんな彼の声に、私は視線を空へと向ける。
海と同じ色をした空へ。
「覚えてたっていうより…思い出したっていうほうが正しい、かな」
私は確かにこの写真に写る人を知っていた。
もうずっと昔から。
写真を見た瞬間、走馬灯のように頭に流れ込んできた記憶。