君という海に溺れる




だから気付かなかった。

何年も経って初めてあのバンドの存在を知っとき、私は彼を"男"だと認識したから。


でも昔から、惹かれるのはアダムの音楽だけだったみたいだ。


きっと、あの日眩しい木漏れ日の中で歌う彼に出会った瞬間から。

あの時から私の基礎は全てアダムの歌で出来ていたんだと思う。


目の前で初めて聞いた生の歌声も。

初めて聞いたギターの音色も。

全部全部、彼に教わったものだった。




「アダムは…覚えてたの?」




そう問い掛けながらアダムへ写真を手渡す。


それは遠い約束。

忘れてしまってもおかしくないものだったのに。


しかし真っ直ぐに視線を向けた先の彼は、その表情を緩め小さく頷いた。




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