君という海に溺れる
目立つような場所でもなかっただろうと思う。
それでも私の目には何かとても特別なものがあるように映ったのだ。
その光が一体何だったのか。
その光の正体を確かめたくなって。
気づけば停車した駅のホームに飛び出していた。
「…初めて降りたかも」
駅の構内にある大きな表札には見たことのある名前。
どうやら此処は私が降りるべき駅の一つ手前だったようだ。
一度も降りたことのないそこに思わず狼狽える。
普段、使わない駅に降りることはまずない。
私がすることといえば必要な場所を往復することだけ。
寄り道は好きじゃない。
その楽しみ方は随分昔に置いてきた。
他の沢山のことと一緒に。
けれど、戻りたいとは思わない。
面倒なことは、嫌いなのだ。