君という海に溺れる
(……ん…)
浮上してくる意識。
なんだか、随分と長い夢を見ていた気がする。
ゆったりと目蓋を上げればあの頃とは違う、それでももう見慣れた天井が見えた。
そしてふいに視界を掠めた黒い髪。
「あ、起きた?」
聞こえてきた声に、その髪の主を理解する。
どうやら膝枕をされているらしい。
視線をさ迷わせれば彼の綺麗な瞳と視線が重なって。
ただそれだけで、何故だか無性に泣きたくなった。
「……アダム…」
口から出たのは、もう長いこと呼んでいなかったあの名前。
その響きに、彼が目を丸くするのがわかった。
そんな彼を見ながら思う。
アダムと呼んでいた彼の名を臆することなく呼べるようになったのはいつだっただろう。