君という海に溺れる
あの頃は茶色かった髪も今は黒く落ち着いている。
相変わらず長かったり短かったりするけれど、どちらも変わらず似合ってしまうのだからこの人の時間の進み方はどうなっているのかと疑問に思う。
本当に私と同じように進んでいるのだろうか。
それでも変わることのない彼に安心しているのもまた事実で。
複雑な矛盾に思わず心の中で笑みが漏れた。
長い髪も短い髪も、茶色も黒も。
正直なところ、彼ならばどちらでもいいというのが私の本音である。
これも惚れた弱味というやつなのだろうか。
それならそれでいいかと思う辺り、私も随分穏やかになった気がする。
「随分懐かしい名前で呼んだね」
そう言って持っていたマグカップを机に置いてクスクスと笑う彼。
静かに笑う彼の姿はやっぱり相変わらず美しい。
自分が女であるという自信を無くしてしまいそうだ。