君という海に溺れる
けれど本当は誰よりも男らしいことを私は知っている。
そう思いながらゆっくりと彼に手を伸ばせば当たり前のように絡む指。
あの頃は触れることすらなかった、彼の手のひらに触れる。
それがどれほど幸せなことなのか。
私がそれを忘れる日はきっと来ない。
忘れていいはずなどない。
だってこれは決して当たり前ではないのだから。
私にとってこれは奇跡なのだから。
そんなことを言えばきっと彼は言うのだろう。
奇跡じゃなくて約束だ、と。
「夢を、見てたの」
彼の手に触れながらぽつりぽつりと話す夢の内容。
それはあの頃の夢。彼と再会した頃の夢。
あの頃の私は世界が全て灰色で。
呼吸すら難しくて。
いつもどしゃ降りの雨の中で立ち尽くしていた。
夢の中の私はいつも難しそうに眉を寄せて。
光の見えない瞳で世界を見渡していた。
まるで作り物を見つめるように。