君という海に溺れる
新しいものを拒絶して、一人の殻に閉じ籠っていたのだ。
目を閉じ耳を塞いで、世界から逃げ出そうとしていた。
そんなこと、出来るはずもないのに。
そんな色褪せた世界から連れ出してくれたのは、他の誰でもない。
アダムと名乗った彼。
あの日の再会を、歌声を、その瞳を、私が忘れることは生涯ないだろう。
今でも少しも消えることなく目蓋の裏に描くことが出来るのだから。
あの日見た茜色の絵画のように。
「思い出すとなかなか恥ずかしいけどね」
困ったように笑う彼は数年前よりも年を重ねているけれど。
私には何一つ変わらずに暖かい木漏れ日のように映る。
柔らかな海のように感じる。
そして七色の虹のように眩しく美しいまま。
いつだって、私の生きる希望でいてくれる彼に、あと何回感謝したらこの思いの全てを伝えられるのだろう。