君という海に溺れる
「私には、幸せな思い出だよ」
そう。
私にとってアダムと出会えた奇跡は幸せな現実。
確かに思い返せばあの頃の私は幼すぎて。
とても大人にはなりきれていなかったけれど。
とても中途半端で曖昧な存在だったけれど。
だからこそあの日がなかったら、私はここにはいなかっただろう。
こうして彼の傍で微笑むことは出来なかったはずだから。
この感謝を、一体どうしたら君に伝えられるだろうか。
何もない私に出来ることは一体なんだろう。
それは今もなお私が追い求める答え。
雨の中、傘を差してくれた君と、私は今虹を見上げることが出来ているのだろうか。
「…ねぇ、アダム。あの歌が聞きたい」
「喜んで」
わざとその名を呼んでねだるようにそう言えば、意図も容易く了承してくれる彼に私は再び目を閉じた。