君という海に溺れる




─♪─♪♪─♪──



────────────コポ、



肺が、揺れた。




(何、これ…歌?)




微かに聞こえる音に耳を澄ませる。

その綺麗なメロディが頭の裏を刺激して。



──♪♪──♪──



聞こえてくるのは、人の声で間違いないと思う。

しかも何かを歌っているその声。


それは雑音しかなかった私の世界に確かな"音"として認識された。


いつのことだかわからないあの日と同じように。

綺麗なそれは自然と私の心を包み込む。


体の奥の奥で扉を叩く音が聞こえた気がした。


無意識に声の方へと進んでいく足。

引き寄せられるように一歩。また一歩。


少しずつ近づいていく距離。
大きくなっていく歌声。


気付けば丘の先にある、一本の大きな木の近くまで来ていた。




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