君という海に溺れる
ただそれだけで、いつもの暗闇が穏やかな色へと変わっていった。
─────────コポ、
脳に直接送られてくるような、少し癖のある声。
舌ったらずなのか甘く響く日本語。
色気を含む英語。
時折僅かにずらされる寄り道さえ自らの音楽に変えてしまう旋律。
(……うん…)
楽だ、と思った。
この音に身を任せることが。
この声に脳を占領されることが。
身体中が甘く痺れて、痛いくらいに心地好い。
全身で感じるその音に、私は暫くぶりに肺へと大きく息を吸い込んだ。
少しだけ思い出す呼吸の仕方。
冷たい空気に生きているのだと指先の感覚を取り戻す。
此処は一体何処なのだろう。
幾度となく繰り返しているその暗い問い掛けも、今だけは光の色をして。
まるでおとぎ話の世界のようだと、初めてその質問に答えを持った。