君という海に溺れる
さわさわと木の葉が重なり響く音色。
それを合図に空気は切り取られた。
周りの音も景色も全て止まって。
広がるのは、私と歌うあの人の世界。
「そこにいるのは誰?」
ゆったりと真っ直ぐに問い掛けられた声。
脳に響くその声と奪われた視線に、少しの間思考が止まる。
まるで何かに取りつかれたように動かない体。
吸い込まれるように見惚れて。
歌っていたときとはまた違うその声色は、色彩の欠けた私の世界にまた新たな色を宿した。
「…君は…?」
再びゆっくりと紡がれたその声にはっと我に返る。
慌てて視線を動かせば、目の前に不思議そうな顔をして首を傾げる綺麗な男の人の姿。
ふわっと揺れた風に誘われる少し長めの茶色い髪と、綺麗な二重の大きな瞳。