君という海に溺れる
ありきたりな名前でいい。
誰もが惹き付けられる響きはいらない。
そんなもの似合わない。
私は決して特別な存在じゃないのだから。
「…それ本当?」
「…さぁ?」
訝しげにその綺麗な眉を寄せて私の顔を覗き込むアダムに、曖昧な返事をして空を仰ぐ。
返した一言にアダムは"んー"と口を尖らせながら同じように空を眺めた。
きっと今この目に映る色はあと数十分の命なのだろう。
すぐに黒い闇がやってくる。
あっという間に世界は身に纏う羽衣の色を変えて。また違う色を生み出すのだ。
だからこそこの景色は美しいのかもしれない。
そんな茜色に少しだけ苦しくなった胸。
そこに落ちてきたのはやっぱり彼の声で。
「…じゃあ、ハナって呼ぶね」
そう言って笑った彼に痛みが和らいだ気がした。