君という海に溺れる




サァァアアと、再び私たちを覆う影が揺れる。


互いの言葉が真実か偽りか。

それはお互いにしかわからない。


そしてきっとそれはどちらも偽りで、そしてどちらも真実なのだ。


けれどそれはどちらだって構わない。


嘘は嫌いだけれど。
この先絶対に好きにはなれないけれど。


人は嘘を吐かないと生きていけないから。

この世界は正直者だけじゃ成り立たないから。

時に嘘も必要なのだと経験しているから。


彼の言葉が嘘でも本当でも、私の言葉が嘘でも本当でも。

それは些細な問題にすぎないのだ。


彼はアダムで私は花子。

彼にはその名が似合うと思った。

私の名前を聞いて彼が笑った。

目の前の夕焼けよりもずっと綺麗な微笑みで。






それだけがこの瞬間の真実。
(その笑みが嘘でないことを私は知っている)




< 49 / 296 >

この作品をシェア

pagetop