君という海に溺れる
サァァアアと、再び私たちを覆う影が揺れる。
互いの言葉が真実か偽りか。
それはお互いにしかわからない。
そしてきっとそれはどちらも偽りで、そしてどちらも真実なのだ。
けれどそれはどちらだって構わない。
嘘は嫌いだけれど。
この先絶対に好きにはなれないけれど。
人は嘘を吐かないと生きていけないから。
この世界は正直者だけじゃ成り立たないから。
時に嘘も必要なのだと経験しているから。
彼の言葉が嘘でも本当でも、私の言葉が嘘でも本当でも。
それは些細な問題にすぎないのだ。
彼はアダムで私は花子。
彼にはその名が似合うと思った。
私の名前を聞いて彼が笑った。
目の前の夕焼けよりもずっと綺麗な微笑みで。
それだけがこの瞬間の真実。
(その笑みが嘘でないことを私は知っている)