君という海に溺れる




「…ねぇ、アダム」


「ん?」




アダムの声が世界の中心であるその空間を破ったのは私だった。


理由があったわけじゃない。

静寂を壊したかったとかそんな思いがあったわけではない。


ただ、その名を声に出してみたくなっただけ。

彼に似合うその音を、自らの口で音にしてみたかっただけ。


空を見上げ、何となく呼んでみた彼の名前。


口に出すのは二度目のそれはやはり幻想的な音をしていて。

私の口からその響きが聞こえることが不思議だとぼんやり思う。


そんな私に返ってきたのは、ありふれた音の声だった。

柔らかな、疑問の声。

私が怖いと感じるあの"音"を持たない声。


たった、それだけのこと。


けれどそれにぐっと息が詰まる。
ぎゅっと心臓が震える。


他の人からは普通の返事だと言われるかもしれない。



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