君という海に溺れる
彼の話し方はとても独特だ。
舌ったらずなそれは、どこか彼に幼さを感じさせる。
少し高い甘めの声色もそれに拍車をかけて。
しかもそれが似合ってしまうのだからずるい。
顔立ちと声と纏う空気と。そしてその瞳と。
全てが合わさって一つの芸術品のようだ。
そんなアダムに心の中で視線を送る。
目を閉じているからわからないが、多分アダムもこちらを見ているのだろう。
さっきの私と同じように。
彼の質問もまた私と同じで深い意味などないのだ。
(此処に来た理由、か…)
アダムの言葉に誘われて電車の中での出来事を思い出す。
体が勝手に動き出したあの瞬間を。
まさに【衝動】という言葉のようだった。
後先など考えずただ走り出していたこの足。