君という海に溺れる




彼の話し方はとても独特だ。

舌ったらずなそれは、どこか彼に幼さを感じさせる。

少し高い甘めの声色もそれに拍車をかけて。

しかもそれが似合ってしまうのだからずるい。



顔立ちと声と纏う空気と。そしてその瞳と。

全てが合わさって一つの芸術品のようだ。


そんなアダムに心の中で視線を送る。

目を閉じているからわからないが、多分アダムもこちらを見ているのだろう。

さっきの私と同じように。


彼の質問もまた私と同じで深い意味などないのだ。




(此処に来た理由、か…)




アダムの言葉に誘われて電車の中での出来事を思い出す。

体が勝手に動き出したあの瞬間を。


まさに【衝動】という言葉のようだった。

後先など考えずただ走り出していたこの足。




< 57 / 296 >

この作品をシェア

pagetop