君という海に溺れる




(あ、でも…)




あの時の思いが鮮明に蘇る。

衝動の中にも、確かな思いがあった。

此処に来る理由になるだけの思いが。


そしてふと目の前に浮かんだ虹色。


あぁ、そうだ。




「宝物が、ある気がしたの」




ドクリと疼いた心臓。

私はあの色に見せられた。

新しく懐かしいあの七つの色に。




「宝物…?」




アダムの呟きにこくりと首を縦に振る。


そうだ。

はじめに見えたのは雨上がりの空の色で。

その独特の澄んだ空気のなかにうっすらと見つけたのだ。


七色の絵の具で描かれた大きな橋を。
この場所に向かって伸びる大きなそれを。


特別な何かに見えた。
何かあるんじゃないかと思った。


あの麓に私には眩しいくらいの何かがあるのではないかと。




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