君という海に溺れる




(…苦しい…)




表情が、日に日に乏しくなる。

それに一番に気付いたのはやっぱり自分自身で。

少しずつ笑えなくなり、涙の回数も減っていった。

そのたびに増えていく作り笑い。


深く息を吸うことは出来ないらしい。


ゴポリと水が喉の奥を刺激して、それを閉ざしてしまうようだ。


改善しなくてはと頭で思えば思うほど、状況は悪化していく。


船は航路を照らす灯火を見つけられない。




「…時間ないから、もう行く」




誰と目を合わせることもせず伏せたまま鞄に手を伸ばす。

用意されていない朝食は気にならない。


もうそれが日常になって久しいのだ。

それを寂しいと思うこともなくなってしまった。


ただ少し、呼吸が苦しいと体の奥が訴えるだけ。



< 78 / 296 >

この作品をシェア

pagetop