君という海に溺れる
そう言った彼女の声を、囁かれた言葉を聞き逃すことが出来たら。
何も聞かなかったことに出来たなら、どんなに楽だろう。
その音に気付けなかったなら、どれほど楽だっただろう。
けれど一度感じ取ってしまった音は消えない。
雑音に混じることもせず、鮮明に留まり続ける。
少しずつ脳を侵食するように。
それはズシリと私の胸に落ちて。
ビュッと喉の奥で鳴る嫌な音。
それに気付かないふりをして、固まりそうになった足を無理矢理動かした。
胸に突っ掛かった大きな何かを抱えたまま。
耳に無意識に押し込んだイヤホンからは、いつもと変わらずあの歌声が聞こえている。
そして始まりを迎える今日という日。
(逃げるように地面を蹴った)