君という海に溺れる
家から逃げ出すように踏み出した一歩。
ただただ真っ直ぐに足を進める。
周りを見ることも何を考えることもなく、ただひたすら無我夢中に。
耳元で流れる音楽だけをこの体に取り入れて。
通い慣れた道のせいかその歩みが迷うことはない。
何もわからなくとも体は動く。
しかし、駅を目前にしたところでピタリと足の動きが止まった。
同時にゆっくりと働き始める閉ざしていた思考。
そしてようやく擦れ違う人並みに気付く。
(…何、してんだろ…)
心の中で冷静にそう呟けばぐにゃりと歪む口元。
痛む眉間が体の強張りを伝えていた。
声にならなかった声は沸き上がる黒い靄とともにこの身を取り囲む。
そして呼吸を奪うように喉元を締め上げるのだ。