君という海に溺れる
そんなとき、頭の中に響いた"もう一つ"の声。
『アダムって言うんだ』
─────────────コポ、
それはまだ真新しい記憶。
虹の麓に宝物を見付けたあの日の残像。
数日前に聞いた彼の声が、耳の奥でこだました。
辺りを照らす日溜まりのような、木漏れ日に揺れる笑顔とともに浮かんでくるそれ。
耳に馴染む、彼の声。
目蓋の裏に見える笑顔は綺麗で、愛しい。
恋しくて、切ない。
それは薬みたいに体の内側から広がり、全てを侵食していくように。
まるで食らい尽くしていくようにあっという間に全身を廻っていく。
同時に少しずつ薄らぐ私の体を覆っていた黒い靄。
サァァ、と一陣の風が吹き抜ければ頭に残るのはあの日見た彼の顔だけだった。