君という海に溺れる
『──────────どうしてそんな顔をするの?』
頭の中で幼い少女がそう問い掛ける。
悲しそうに顔を歪ませながら。
あれは一体、誰だった───────?
けれど、私がその言葉を口にすることはない。
聞くなと、彼の瞳が言っているから。
人の表情を読むのは得意な方だ。
触れてほしくないと願うなら触れることはしない。
わざわざ自ら嫌われる道を、傷付く道を選ぶ必要はない。
(結局は、自分のためだけれど)
私は小さく"うん"とだけ返事をしてアダムから目を逸らす。
ごめんね、という言葉をその上に乗せながら。
横から彼が"酷いなぁ"と笑った声が聞こえて、その声に不快な音がなかったことに心の中で息を吐いた。
痛い思いは御免だ。
もうずっと、そうやって生きてきたのだから。