少女Sの忘却
気付いた時には、辺りは夕焼けで真っ赤に染まっていました。
私は直ぐさまこの場から離れなければ、そう思って後ろを振り向きました。
けれども、そこに扉はありませんでした。
少女Nが小鳥に命じて集めた小枝と彼女を糧に咲き誇った荊が、出口を隠してしまったようでした。
私は頬や腕に赤い線が幾重にも重なり、白い繻子の靴が泥だらけになるのも構わずに、道なき道を潜りました。
そうして、秘密の花薗への入口を、毟った蝶々の羽根で覆い隠しました。
少女Nが誰にも見付からないように、私は少女Nを花薗ごと埋めたのです。