音人。
「んっ……っ!」

 ぬるりとしたものが滑り込んでくる。甘くやさしく、ときには激しく侵してくるそれを、あたしは押し戻すことができない。

「……んっ、いちにっ……」

 名前すら呼ばせない。腕で押しのけることすら許さない。っていうか腕に力すら入らない。

 そのまま、どのくらいの時間が流れていたのだろう。

 気がついたらあたしはそのまま壱兄の部屋の床に敷いてある蒼いカーペットに押し倒されていて、紅くうるんだくちびるをした壱兄を見上げていた。

「……壱兄」

 今まで聞けなかったことを、あたしは聞いてみる。

「なに?」

 壱兄はやわらかい声で聞き返す。あたしの両耳の近くに手を置いて。すぐにでもそのまま何かできそうな位置で。

「壱兄、あたしのこと、好きなの?」

 しばしの沈黙が流れた。

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