溺れる唇
「はい。システ」
「すぐ来てくれ!」
電話の相手はかなり焦っているらしく、
私の名乗りを途中で遮るように言った。
子供じゃないんだから、まずは、
名前くらい名乗れよ。
軽くムッとしながらも、私は仕事用の
愛想の良い声を作る。
「どちらの部署ですか?」
「営業企画課!3階の突き当たりだ。
できるだけ急いで来てくれないか」
ほう。
これはまた珍しい部署から
連絡が来ましたねぇ。
このやり取りで残業決定の私は、
少し意地悪な気持ちになって、
殊更ゆっくりと優しい声で
定型の確認を行った。
「どのような状況か、教えて頂けますか?」