溺れる唇

地下の穴倉を出て1階に出ると、
既に正面の自動ドアは閉められ、
業務終了の立て看板が置いてあった。

私は薄暗い正面ロビーを横切り、
エレベーターホールへ入ると、
隅にある非常階段のドアを開けた。


あの大きな被害を出した地震の日以来、
使う機会の減ったエレベーターは、
生活必需品、ではなかったらしい。

幸い、私の所属する部署はB1だし、
普段お呼びがかかる階も3階以下が
ほとんどなので、エレベーター無しの
生活に不便さは感じなかった。

人気の無い会社のエレベーターの中に
1人、閉じ込められることを思えば、
たいした労力ではない。

最初の頃、パンプスのヒールが高い日
などには少し迷ったりもしたが、
今はすっかり慣れてしまった。

ちなみに今日履いているのは、
3cmのオープントゥ。



< 15 / 344 >

この作品をシェア

pagetop