溺れる唇
笠井さんは今みたいに優しく苦笑して、
私の髪をくしゃっと乱した。
そして、近くのどこかに私を座らせ、
ここで待っているように、と言って、
離れていった。
酔った私は、そこで、うとうとと
眠りこんでしまったんだと思う。
誰かに抱えられるようにして少し歩いた
ような記憶はおぼろげで。
重たい瞼を少しだけ開いた時には、
走るタクシーの中だった。
誰かの方に寄りかかってる感じがして、
首を回すと、相手は笠井さんだった。
「すみませっ!」