溺れる唇

目の前で、笠井さんが、ふっと笑った。

「それに、俺もこれから迷惑かけるし。
お互いさまだろ?」

微笑んで細められた目が私を見て、
大きな手が、また私の髪に触れる。

「だから、安心して寝とけ」

髪を撫でた笠井さんの手は、そのまま
落ちて、私の肩を抱いた。


はじめて触れる“大人の男”に
ドキドキが止まらない。


私は胸の高鳴りを抑えようと、
両の目をぎゅっと閉じた。



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