溺れる唇

あの時の笠井さんには、
本当にちょっと・・・いや。


ちょっとどころじゃなくドキドキした。


私は、今、目の前で缶コーヒーを
飲む男を見て、小さく笑う。


「笠井さん、また寝ぐせついてますよ」


あの時のちゃんとしたスーツ姿が
珍しいものだと知ったのは、
歓迎会のあった、翌週の月曜日だった。


気の抜けた姿で現れた笠井さんは、
ただの気さくな上司になってて。



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