溺れる唇
この倉庫みたいな隅っこの部署で、
きちんとした笠井さんが仕事をする姿を
思い浮かべ、私は思わずくすくす笑った。
笑いの元の笠井さんは、私の笑い声に
仕事の手を止め、癖っ毛気味の
やわらかそうな髪に手を突っ込んだ。
「寝ぐせ、そんなにひどい?」
「いえ」
「でも、笑ってる」
「これは・・・思い出し笑いです」
チラリ、と笠井さんが私の方に
目を向ける。
「・・・なんかいいことあった?」
「ええ」