溺れる唇


昔、に。


笑いながら、心の中で答えて見返すと、
笠井さんは椅子の背もたれに肘を乗せ、
体ごと、こちらを向いた。


あなたは知っているけど、知らない話。


「・・・・・・・・ふうん」

聞こえていないはずの心の声を聞きつけた
ように、笠井さんはつぶやいた。

そして、検分するように私を見る。

「?」

久しぶりに見る、笠井さんの
笑っていない目にドキリとする。



< 162 / 344 >

この作品をシェア

pagetop