溺れる唇
仕事は嫌いじゃない。
今の生活も、悪くはないと思っている。
苦痛じゃない仕事と、
それほど苦痛のない生活。
人生なんてこんなもんだろうし、
それ以上を望む気持ちもあまりなかった。
まあ、最後に別れた男が、
恋しいと思うほどのものでも無かった、
というのは大いにあるのかもしれないけど。
そんな取りとめも無いことを考えながら、
3階分の階段を軽い足取りで上がって。
ドアを開けた先は、
ちょうどフロアの真ん中あたり。
エレベーターホールとは逆に進むと、
正面にあるガラスのドアに書かれた
白文字が目に入った。
「“営業企画”。ここね」