溺れる唇

「ああ、もう・・・」

イライラとつぶやいて頭をひっこめ、
壁に背を預け。

「ばか・・・」

ため息交じりに悪態をつく。


私が、ここから出てくるのは、
わかっているはずなのに。

直立不動の姿勢で、
こちらへ目も向けなかった裕馬。

あんな衆人環視の中で、
ただでさえ目立つ男の前に立ち、

「待った?」

なんて、にっこりしちゃったりする勇気、
私には無いっていうのに。


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