溺れる唇
私はさっきと同じように、そろりと
ロビーを覗きこみ、
裕馬の姿を捕えたと思った所で、
視界が遮られてしまった。
「うわっ」
眼前に現れた黒い布地はスーツのもの。
「翔子先輩?」
不審げに呟いたのは、芳賀くんで。
出会い頭の事故を予想して縮めた首を
伸ばし、顔を見合わせる。
「ごめん」
ほっとした後で、気まずそうにした
私の顔を見ると、芳賀くんは
何かを思い出したような表情の後。
実に嫌ぁな顔をした。