溺れる唇
「こんな所から急に頭出したりしたら、
危ないじゃないですか」
芳賀くんに押し戻されて、
私は階段の踊り場で曖昧に笑う。
「ごめんね。その・・・帰るところで」
「あの人ですか?」
芳賀くんの声が苛立ちを帯び、
私は昨日のことを思い出す。
「あの、私・・・」
視線を彷徨わせて、見つけた逃げ道は
1つしかなくて。
「帰るね・・・お疲れ様」
ずっと覗いていたロビーへと向かった
私の肘を、芳賀くんが素早く掴んだ。