溺れる唇

「翔子さん」

いつも違う呼び方に思わず顔を向けると、
正面から見つめる芳賀くんの目に
掴まってしまった。

掴まれた肘の少し上に、
強く、指が食い込む。

「痛・・・」

微かな抵抗を見せても、その指は
揺るぎなく、私の腕を捕まえていて。

「行かないで」

見つめられた目の色に、
この子もやっぱり男なんだ、と。

改めて認識した時にはもう、
柔らかいものが唇に押し付けられていた。


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