溺れる唇


カカカッ!


転びかけた私のヒールがたてた音が、
ロビーの高い天井に
大きく反響したのがわかった。

そして、遠慮のない力で突き飛ばした
芳賀くんが、鈍い音をさせて、
思い切り背中を壁にぶつけたのも。

階段とのつなぎ目の真ん中で。

あれほど回避したかった
大勢の社内の人間の目に晒されながら、
私は突き飛ばした相手に、
どうにか顔を向けることができた。


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