溺れる唇

あの頃、子供だった私に
恐れを抱かせた激しさは、
今になって、
溢れるほどの愛しさだけを呼び起こす。

「・・・ゆ・・・ま・・」

荒い吐息の合間に名を呼ぶと、
裕馬は唇を離し、
名残惜しげに見上げた私を
潰れるほどに抱きしめて、言った。

「渡さない」

「・・・・・え?」
「あいつなんかより、俺の方が・・・」

言葉を失って見あげた瞳は、
私ではなく、
他の誰かに向けられていた。


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