溺れる唇

「いやっ!」

振り切ろうと抗った力よりも、
拒絶の言葉に緩んだ拘束を解き、
私は精一杯の拒絶の声を上げた。

「はなして!」

思いきり突っ張らせた腕の先に、
戸惑ったような表情の裕馬。

とりなすように伸ばされた腕を、
力いっぱい払い落す。


『アイツナンカヨリ、オレノホウガ』


あの時と、全く同じセリフに、
ずっと忘れようとしていた言葉が、
耳の奥で、こだました。


< 248 / 344 >

この作品をシェア

pagetop