溺れる唇

こぼれる涙を拭うことも忘れて、
走り出した私は最初の角を曲がって。

知らない方へ、知らない方へと
無我夢中で走りに走った。

その勢いのままに飛び出たのは、
見覚えのある、明るい大通り。

見覚えのある店や街路樹の連なる、
日常の光景。

そして、目の前に立つのは、
見覚えのありすぎる灰色の建物。

「あ・・・」


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